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2004年 09月 22日
『サイエンス21』 翔泳社
ミチオ・カク(著) 野本陽代(訳) P95 特大の機械おもちゃの寄せ集めの真ん中に、ロドニー・ブルックスが作ったアティラという名のひどく簡単な機械がある。アティラの顔を愛せるのは母親(あるいは作った人)だけだろう。重さが1.6グラムほどのアティラは棒で作られたひょろ長い六本足の特大ゴキブリのように見えるが、10台のコンピュータと150個のセンサーを完備している。それは一日の大半を、通りに置かれた障害物を上手に避けながら、時速2.4キロというきびきびした速さで、虫のようにはい回ることで過ごしている。 誇りと喜びに満ちた親のように、ブルックスは「アティラは世界でもっとも複雑なロボットだ」と自慢する。 ブルックスにとって人工知能の将来は、無数のハリウッド映画でロマンチックに描かれているような床を埋めつくす巨大なコンピュータではなく、アティラのように小さいが驚くほど機敏な昆虫型ロボットにある。これはまったく新しい人工知能とロボット工学への取り組み方である。 動かす前に膨大なコンピュータプログラムを供給しなければならない従来の移動ロボットとは異なり、アティラはすべて経験から学ぶ。それはどうやって歩くかさえ学ばなければならない。最初にスイッチが入れられたとき、酔っぱらったゴキブリのように足がバラバラになってしまった。しかし、多くの試行錯誤をくり返したのち、それは本物の虫のように、六本の足をどのように調節して動かしたらよいのか、少しずつ学んでいく。アティラがAI研究所のなかをどのようにはっていくかを習うのに必要なのは、簡単なフィードバックメカニズムだけである。 P98 多くのボトムアップ方式には一つの共通した特徴がある。生物と同じ方法で機械にゼロから学ばせることである。生まれたばかりの赤ん坊のように、それらは自らの経験から学ぶ。この哲学を一語でまとめると、学ぶことがすべてであり、論理やプログラミングは必要ではない。まず、学ぶことのできる機械を作る。そののち、それ自身が現実世界のなかであちこちぶつかりながら、論理と物理学の法則を学んでゆく。 P116 別の成功例が、ハチの脳のパターン認識の再現である。ハチの脳にはわずか100万個(人間の脳の約10万分の1の大きさしかない)のニューロンしか含まれていないが、今日あるコンピュータの大半より1000倍も速く機能することができる。YUMmx1と呼ばれる蜂の脳細胞には、砂糖あるいは芳香に遭遇すると刺激される部分があることを生物学者は発見した。花々のあいだを飛び回ったあと、ハチは花の匂いと報酬である蜜とを結びつける記憶をもって帰る。この方法でハチは、どの花がもっとも報酬が多いかを判断する方法を学んでいる。テリー・セジナウスキーはハチの脳と同じ機能をもつニューラルネットワークを作ることに成功した。人工ハチの花の好みが本物のハチとまったく同じであることを彼は発見した。 P108 セジウスキーは人間の会話を再現するにあたって、ふつうのトップダウン方式を採用しなかった。彼は、音声学のルールや(何の根拠もない)例外にあふれた発音やプログラムについての分厚い辞書を投げ捨てた。代わりに彼は、そのすべてを驚くほど簡単なニューラル回路で置き換えた。ネットークは私たちと同様、試行錯誤によって英語を話すことを学んでいる。プログラムも、辞書も、ルールも、例外のためのルールもなく、ただ間違いから学ぶ能力をもっている。 セジナウスキーは、ネットークに文章を吹き込んだテープ(ふつう、100語ほどの子供のエッセイ)を与えることで実演を始める。ネットワークはでたらめに文章を読むことから始める。それから「ヘブのルール」を応用する。文章を「読む」たびに、その実に下手くそな発音を文章と比較し、ニューラルネットのなかで微調整を行う。正しい発音に近くなったそれぞれのニューラル結合は強められる。調整が行われるごとに、ネットークは文章により近くなっていく。 この方法でネットークは、子供が言語の発音を学ぶ方法のまねをする。夜、ひとりで眠ろうとしている幼児のそばにテープレコーダーを置いて観察した心理学者は、幼児がある言葉を完全に発音できるようになるまで何回も何回もくり返すことを以前から知っていた。試すたびに子供は正しい発音に少しだけ近づく。 セジナウスキーはネットークがどのように学び始めるかを説明する。「ネットワークが最初に発見することは母音と子音のちがいです。しかし、どっちがどっちかはわからないので、でたらめに母音か子音をあてはめます。ぺちゃくちゃしゃべるんです。」 ネットークのようなニューラルネットワークは、脳の働きをまねする電子ニューロンの集合である。ニューラルネットワークが正しい選択をするたびにその結合はそれぞれのニューロンの「重み」を変えることで強化される。まちがいを犯すたびに、その接続は弱められる。この辛いゆっくりした過程を数時間くり返すと、正しい発音に向かってまちがいなく進歩していることが実感できる。 「ちがいがわかりますか」とセジナウスキーは興奮していう。「それは間、言葉と言葉の区切りを発見しました。そこで言葉らしきものを一気に話しています。」 一日もたつと驚くほど進歩する。一晩たつとネットークは、小学校三年レベルで98パーセント正確に文章を読むことができる。16時間後には、薄気味悪いほどの正確さで、次のような言葉を読むことができた。「私は友達といっしょに学校から家まで歩いて帰る。私はおばちゃんの家に行くのが好きです。なぜなら、キャンデーをくれるからです。」 もちろん、ニューラルネットワークが人間の脳の模型を造れるようになるには、まだ道のりは長い。物理学者ハインツ・ペイジェルがいったように「実際のニューロンと模型のニューロンのちがいは……人間の手とベンチのちがいとほぼ同じである」。しかし、簡単なニューラルネットワークが話せるという事実は注目すべきことで、人間の能力をたぶん電子的にまねできる、ということを示しているのだろう。 P117 この章の前の方で昆虫型ロボット、アティラとともに登場したMITにロドニー・ブルックスは、コグと呼ばれる彼にとって初めての人型ロボットを作り始めた。このロボットは少し人間に似ている。 ちょっと見たところコグは、「ターミネター」のなかでアーノルド・シュワツネッガーが演じた殺人ロボット(映画の最後近くで外側の皮膚がすべて焼けてしまったあとの)のような、SF映画に出てくる人造人間の一部に似ている。皮膚がないので、コグの精巧に作られた機械部分をすべて見ることができる。筋肉の代わりに小さなモーター、骨の代わりに金属の棒、目の代わりにビデオカメラがつけられている。長い手を一本持っており、その先には環境と相互作用するのに使う大きなハサミがついている。 高さが約120センチのコグには足がない。「動けないんだ」とブルックスは認める。足がないとはいうものの、コグは人間の胴体、頭、そして腕とほぼ同じ動きをすることができる。 朝、コグのスイッチを入れると、頭と手をまるであくびするかのように動かす(実際には頭と手の位置を確認しているにすぎない)。 コグの「脳」は、ニューラルネットを形成するように改造された8台の32ビット16MHzモトローラ68322マイクロプロセッサからなっている。これらは、私たちの脳の中でニューロンが結ばれている方法をまねてつながれている。239台のマイクロプロセッサを内蔵できるように回路を増大すると、コグの能力はかなりなものとなる。コグはふつうの意味でのチューリングマシンではないのでプログラムされていない。すべてはボトムアップマシンと同様、コグは子供が学ぶ方法で学ぶ。 たとえば、生まれたばかりに赤ちゃんは白紙の状態なので、噛んだりものにぶつかったりという経験を積むことで、手足が身体とつながっていることに気づく。激しく動き回ることで、赤ちゃんは自分の前に横たわっている三次元の世界を少しずつ意識し始める。赤ちゃんはまわりの世界にある物体が何かを理解すると、そのあとは人間との相互作用を通して学ぶようになる。 同様に、最初はコグは物をつかむ訓練を受ける。これは赤ちゃんの最初の反応の一つである。長々とした試行錯誤によって、コグは手を伸ばして物に触ることができるまで腕を動かすことを学ぶ。最終的に、それらをどうやってつかみ、もつかを学ぶのである。コグは最初からプログラムされているわけではなく、この方法で自らの「世界地図」を作っていく。 コグは赤ちゃんがお母さんから学ぶのと同じ方法で人間と相互作用する。したがって、コグは人間を意識することを覚えなければならない。コグはまた、アイコンタクトをする方法を学ばなければならない(コグの目は人間と容易にアイコンタクトできるように設計されている)。アイコンタクトを通して「母親」はコグにだんだんむずかしくなる仕事を教えていく。たとえば、コグは「代わり番こ」で学ぶだろう。ある仕事を終えた母親はコグとアイコンタクトをとる。するとコグは今度は自分の番だということを知る。コグは行動を終えると母親にアイコンタクトをする。このアイコンタクトの応酬はコグが仕事を学ぶまで何度も繰り返される。これまでのところ、コグはまだ実験段階にある。コグにはまだ二歳の赤ちゃんの能力もない。 概念上、コグはダグラス・レナートのサイクの正反対に位置している。コグは究極のボトムアップ・ロボットであるのに対し、サイクは究極のトップダウン機械、前もってプログラムされた常識機械である(これら正反対のニ方式の間には、ある種の友好的な競争関係がある。ブルックスはレナートをわざと怒らせるために、自分のロボットをサイク!と呼ぶことさえ考えた)。 コグのような人造人間と、サイクのようなトップダウン常識プログラムは、21世紀半ばごろまで、主として実験的に使われるだろう。そしてたぶん40年以内にトップダウン・グループとボトムアップ・グループが合体して、真に自由に考えるロボットが作られるにちがいない。 ハンス・モラヴェックによれば、この仮定は段階的に行われることになる。 2020年から2030年、ロボットは優れた想像力をもつようになるだろう。すなわち、仕事を実行する前に頭の中でそれを模擬することができる。これらのロボットは世界のモデルを作ることができ、自分の行動の結果を予想できる。たとえば、料理をする前、あるいは道路を渡る前に、ロボットは頭のなかで何回も将来の可能性を模擬するだろう。この想像力を実現するためには、現実の世界と相互作用するのに優れているボトムアップ方式と、世界の抽象的なモデルを作るのに優れているトップダウン方式の力を合体させなければならない。このころには、ロボットはサルと同じくらいの知性をもっているだろう。 2030年から2040年、真の統合が行われ、両グループが全盛を迎える。モラヴェックによれば、真の推論能力をもつロボットがこのころまでに完成する。コンピュータのパワーが天文学的な速度で増大することで、トップダウングループは人間の推論の力をはるかに上回るロボットを作れるだろう。最終的な統合は、この人間を超えた推論能力と、現実あるいは模擬世界のなかで歩いたり機能したりする能力を、科学者が合体させられるようになったときに実現するだろう。これらの二つの強力な機能が合体することで、「この結合によって、どこか私たちに似ているが、これまで誰も見たことのないようなものが作られる」とモラヴェックは考えている。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ こんな話を聞くと、もしかしたら生きているうちに・・・なんて、ちょっと長生きしてみたくなったりしますね。でも、ホントかしら。 アティラは、コンピュータプログラムによって動かされているんではなくて、自ら学んだことに基づいて決断して、主体的に行動しているんでしょうね。 でも、自ら這いまわろうっていうそもそもの「衝動」は、どうやって組み込んだんでしょうか。 経験から学ぶってことは、「歴史的文化的背景」とか、「フレーム問題」とかに結びつくんでしょうかね。 人間と相互作用して、対人関係でうまく立ち回れるよう、「心の理論」も学習によっていずれ獲得できるんでしょうか。 そしたら、他者に当てはめるためのモデルとして自らを使うため、自己意識ももつようになる? ナンカ、先は長そう。 ボトムアップロボットが、経験から学んで人と同じような心をもったとして、でもそれはロボットがいわば勝手にやったことで、そしたら、心ってどういうもんなの、っていう問いに対する答え、心のメカニズムは、やっぱりわからないのかな。 ほらほら見てごらん、こうやって知能はできたのよ、ってだけで。 人間に、ボトムアップではない、トップダウンの知能って、あるんでしょうかね。 経験から学んで、自ら決定して行動するんだから、そんなのは機械的な動きだ、なんて簡単には言いにくくなるよな。 あらかじめプログラムされていないボトムアップ型のロボットの場合、しつける、とか、育てる、とか、教える、とか、導く、なんて話も出てくるんだろうな。 そうすると、同じメーカーの同じ型の人造人間でも、育ちによって、一人ひとり個性が違うということになるだろう。(氏より育ち?) そしたら、ロボットのアイデンティティなんて問題も発生するんだろうか? 少なくとも、機械だからって、壊れたら新しいのと取り替えればいい、って簡単に済ませられないこともあるだろうな。 遺伝子が同じで育ちが違う、一卵性双生児みたいなもんだろうか。 いったん覚えたことが不都合だからって、修正するのは簡単にはいかないだろうな。人間みたいに、意地を張ったりするかもしんない。 人造人間の心をコピーしたり、バックアップしたりするのは、そんなに簡単にはいかないよな。お気軽にコピペっていうようなわけにはね。 少なくとも、機械の心はコピーできるけど、人間の心はコピーできない、なんて、アッサリと言うことはできなくなる。 うん、人工知能は、やっぱりボトムアップに限る、カモ。
by nbsakurai
| 2004-09-22 14:03
| エリア3 (ロボットの心)
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