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2004年 10月 19日
『心をもつ機械』 ―― 人工知能の誕生と進化
スタン・フランクリン 林 一 三田出版会 P26 心のメカニズムを創造するための、いくつかの重要かつ特殊なアプローチをざっと眺めることにしよう。 ○ 記号的AI AIはときには、人間に行わせるとすれば知能が必要になるようなこと――たとえば、チェス・プレー、英語を話す、あるいは病気の診断――を機械に行わせる技術、として定義される。AIシステムは概して、自分自身を狭い領域に閉じ込める。たとえば、チェス・プレーをするプログラムは通常、英語を話さない。それらのシステムは危ういものになりがちで、自分の領域の境界に近づくと破綻しやすくなり、領域外では完全に無知になる。私はチェス・プレーヤーに、胸の痛みを推測してもらいたいとは思わない。AIシステムは訓練されたり進化したりするというよりも、設計され、プログラムされたものになりがちである。それらは本質的に命題的なもの、つまりある言語で表現された規則、あるいはなんらかのデータ構造にもとづいたものになる傾向がある。AIシステムは概して、通常のコンピュータ、専門的にはフォン・ノイマン型機械と呼ばれているもので実行される。だが、並列プロセッサに移行する動きが見られるので、直列コンピュータへの依存は将来、弱まるだろう。 ○ 人工ニューラル・ネットワーク(ANN) これは大筋では、神経系の構造にもとづいた認知および(または)計算モデルである。こうしたシステムの一つが「Snifer(嗅ぎ屋)」、つまりプラスチック爆弾を見つけるために航空荷物から出る反射中性子を走査する装置である。単純なエキスパート・システム・モデル(記号的AI)にはこれがうまくできないが、ANN(人工ニューラル・ネットワーク)は成功しているようだ。もう一つの例はNettaik、すなわち英文テキストの発声を学ぶシステムである。ANNシステムには能動文を受動文に変換するいった、高次の認知的な作業も行える。ANNは概して、プログラムされるというよりも、訓練されるものだ。スタッブが「学習機械」と呼んだのがこれである。学習機械は、完全な人工の心にとって決定的に重要な意味をもつ。コンピュータ・プログラムを書くときのように、人間が知らなければならないものをすべて指定することは絶対に不可能だろう。なんらかの学習が機械に含まれていなければならない。 ANNは直列的ではなく、むしろ並列的に作動する。欠陥部品あるいは間違った接続があっても、システムは(記号的AIシステムの場合のように)いきなり駄目になる代わりに、性能がじわじわと低下する。ANNは、理論的にはコンピュータにできることなら何でもできるが、パターン認識および(または)分類問題に対して特に有用である。 ○ シリコン神経系 高次の認知技巧から、パターン認識および分類まで一気に駆け下りたついでに、さらにシリコン神経系を用いた感覚にまで降りていこう。これで、私のもう一人のヒーローであるカーヴァー・ミードの言葉を引用する機会が生じる「もし、あるシステムを本当に理解すれば、それを建造することができるだろう。逆に、動くモデルを製作して証拠にするまでは、システムを本当に理解したとは言えない」。これがエンジニアの見方というものであり、また同時に認知科学者と認知心理学者を隔てる大きな論点でもある。認知科学者はモデル作りを切望しており、したがって彼らの理解ははるかに洗練されているように見える。私はこの引用を、心のメカニズムに対する、ボトムアップ的および総合的なアプローチを正当化するものと考えている。 現在では、人工ニューラル・ネットワーク・チップが市販されている。私はそれを、シリコン神経系を考案する望みを与えてくれる構成要素の先駆と見なしている。ミードと彼のグループは、シリコン網膜とエレクトロニック蝸牛を作り上げている。こうした創造を可能にした原理は、ウエハー規模の集積化である。これは単一の回路に、シリコン・ウエハー全体、たとえば直径四インチのものを使うことを意味する。ANNのもつ故障許容性(じわじわ進む劣化)のために、これが可能なのである。マハワルドとダグラスは「シリコン・ニューロン」を作り上げたが、本物のニューロンに似た出力をもつために、神経学者さえも騙されるほどリアルなものだった。 ○ 人工生命(AL) 具体的な実行からシミュレーションに移れば、われわれは人工生命(AL)に行き着く。これは自然に生きているシステムの行動の特徴を示す、人造システムの研究である。ALの一つの例がレイノルズの架空の生き物であるボイド、言ってみれば鳥や魚のようなものが群れ集う行動を示すコンピュータ・モデルだ。群れは、たとえば障害物の両側を分かれて通った後に、再び一つにまとまる。この行動を指導する管理者はいない。各々のボイドは、隣のボイドと障害物から最小限の距離を保ち、スピードを隣のものにそろえ、近接したボイドの中心とおぼしきところに向かって進むという、比較的単純な局所的規則にしたがっている。にもかかわらず、そこからボイドたちの自発的かつ大域的な、鳥に似た行動が生まれる。 コンピュータ・ウィルスがALのもう一つの例になる。それらは繁殖行動とともにトラブルも引き起こす。これまでのところ、コンピュータ・ウィルスには進化の傾向は見られない。われわれとしては、いつまでもそうであることを願う! しかし、進化するアルゴリズムあるいはプログラムは多数存在する。 人工生命は概して、生命の形式的な基礎にかかわっている。生命がどのように作られるかではなく、どのように振る舞うか、についてである。こうしたシステムは生命に似た行動を作り出す試みであり、創発的な行動に焦点を合わせている。システムの大部分はきわめて分散しており、大規模な並列をなしている。集団はたいてい進化するが、ときには共進化することもある。 ○ 計算的神経行動学(CN) 行動学はダイナミックな環境における動物行動の研究である。神経行動学はこうした行動の神経基質を研究する。計算的神経行動学は、その神経基質を含めた行動のコンピュータ・モデル作りにかかわる。 CNは閉じたループという環境の中で働く。AIシステムによくあるような、人間による入力を通してではなく、(おそらく人工的な)環境を直接知覚する。それは次の知覚に影響するような仕方で環境に働きかけ、それによってループを閉じさせる。シミュレーションあるいはロボットが動き始めた後は、ループの中には意味づけを行う人間はいない。これがCNの中心をなす教義である。CNを研究している人たちは、閉じたループという環境に固執するとともに、伝統的なAIはこの金言に注意を払わなかったために道に迷った、と主張している。 CNは個々の動物あるいは集団をモデル化できる。それらは遺伝的に進化し、神経系を通じて学習する傾向がある。また適応的に行動するが、これはその行動が置かれている環境に応じて変化することを意味する。CNシミュレーションは膨大なコンピュータ資源を消費する傾向がある。CNの実務家は簡単な動物の複雑なモデルを作ることで、伝統的なAIのアプローチ、すなわち複雑な動物の簡単なモデルを作る以上のことが学べる、と主張している。両方をやるべきだ、というのが私の見解である。次もまたミードからの引用であるが、計算的神経行動学の立場を支持するものと見なすことができる。「最も簡単な動物の神経システムでさえ、人間が作ったシステムに比べて何桁も効率の高い、計算パラダイムを含んでいる。 ○ サブサンプション・アーキテクチャ ブルックスは、サブサンプション(包摂)・アーキテクチャと呼ぶものを追求している。われわれがワニと共有している古い脳が、呼吸のような低次機能の多くを制御している、というのである。われわれはその上に高レベルの機能を築いた。たとえば、われわれは古い脳を抑圧して、息を止めることもできる。もし高レベルの作動に何かが起きれば、より低いレベルの素材はもはや抑圧できなくなり、再び顔を出す。呼吸の意識的制御はあなたが意識を失うまで続く。その後は古い脳が取って代わる。 ブルックスはこの原理にもとづいたロボットを建造し、それに一系列の能力を与えた。ある能力がほかの能力を包摂および(または)利用するのである。彼のロボットは漸増式に建造されている。新しい能力は古いものをかく乱しないように、一度に一つずつ付け加えられる。たとえば、彼は静止した物体を避けるように可動式ロボットに固定配線をほどこしたので、ロボットは何かにぶつかりそうになると、止まったり向きを変えたりする。彼はこの基礎の上に、運動している物体を避ける能力を作り上げた。次なる能力は部屋中を走査して物体を見つけ、それに向かって動くことである。ただし物体回避能力は残された。以上すべての上に、彼は探求のためのメカニズムを創造した。これらの能力はすべて固定配線されている。学んだものは何もない。ロボットは目標志向行動を有しているように見えるが、ブルックスによれば、ロボットは何らかの表現というものを決してもたない。 ○ ダイナミック表現 (略) ○ そのほかのメカニズム (略) (nb注記 : シュマ・メカニズム、RAAM、受動態化ネットワーク、ニューロン・グループ選択理論、反応的プラス立案アルゴリズム、デモン殿堂理論、・・・・。) ○ 記号的AI vs. ANN P203 コネクショニストはしばしば彼らの選んだ道具、人口ニューラル・ネットワークはそのアーキテクチャに本来的な利点があるために、記号的モデルに優越した認知モデルを作り出す、と主張する。この節では、これらの長所とされているもののいくつかを眺める。 人工ニューラル・ネットワークのもっとも顕著な性質の一つは、中心的な管理者がいないことである。担当者は誰もいない。全体的な描像を持ち、決定を下すものはいない。制御は分散している。すべての決定は局所的な情報にもとづいて下される。各々のユニットは、たぶん自分自身を含めた近隣のユニットからの入力と自分自身の内部状態だけにもとづいて、その出力を決定する。隣のユニット同士を区別することさえしない。なぜこれが長所なのか? それはネットワークが大域的情報を集め、大域的な決定に到達するための負担を負わなくてもいいからである。 このアーキテクチャのもう一つの顕著な便宜は、デフォルト割り当てが自動的に存在することである。入力をそれに与えれば、出力が得られる。ネットワークは何であれ、何かを行う。その何かが、手中のデフォルト値である。記号的システムでは、入れるべきデフォルト値は何であれ、プログラマーがせっせと組み入れなければならない。 語認識の例を探訪している間に、われわれは人工ニューラル・ネットワークが、損なわれている語WORKのようなものを完成させるのを見た。パターン完成によって内容で呼び出すことが可能になる。このネットワークの中には、小さなデータベースとして設計されたものもある。もし情報を引き出したければ、その一部を入れればいい。 記号的AIは不安定になる傾向がある。つまり、一見小さなミスが破滅的な失敗を引き起こす。広く流布している、しかしたぶん本当ではない一つの物語があって、それがこの点を生き生きと説明するだろう。雲に覆われた金星に軟着陸するはずの着陸船が、プログラムのたった一つのコンマの打ち間違いのために惨めにもばらばらになってしまった、というのである。これに対して、分散的表現を利用するコネクショニスト・ネットワークはもっとゆっくり劣化する傾向がある。少数ユニットの故障は破滅的な失敗を招く代わりに、実行をいくぶん損ねることになりそうである。 コネクショニスト・ネットワークで以前に出会っている、自発的一般化も長所と考えていい。これらのネットワークはしばしばどの個別的ユニットの能力をも超える大域的振る舞いを示す。これらは創発的振る舞いと呼ばれ、明確な長所だと考えている人たちもいる。最後に、名声と財産をもたらした人工ニューラル・ネットワークの特性がある――学習である。この長所は確かに注意深く眺めるに値する。 P220 ここで数分間かけて、心の脳モデルと心のコンピュータ・モデルの違いを明らかにしよう。コンピュータ・モデルは記号的内部表現、思考の内部言語を前提している。脳モデルからはこのアイデアが抜け落ちている。コンピュータ・モデルはプロダクション規則あるいはそれに似た形の内蔵されたプログラムを前提している。このアイデアもやはり脳モデルから抜け落ちており、脳モデルはその代わりに自らの重みにあわせて調節されたネットワーク内の連結に導かれた活動を前提している。 P243 <表> 「記号的AI(*A)対コネクショニズム(*B)」 *A 表現は統語論的に構成されている。 *B ユニットの集合にまたがる活動パターンが構造を表現する。 *A 認知はハードな表現レベルの規則を通して完遂される。 *B 問題はネットワークが拘束にうまく適した状態に落ち着くことで解決される。 *A 多重拘束は逐次的に処理される。 *B すべての拘束条件は一挙にホッパーに入れられ、その仕事をすることを許される。 *A 記憶の表現が蓄えられる。 *B 活動的な表現だけが存在する。表現形成傾向は重みの中に存在する。 P244 コネクショニズムに対する楽観論にはいくつかの理由がある。第一に、コネクショニスト表現は任意の複雑な統語論的構造をもつことができる。それらはコンピュータ(チューリング機械)にできることなら何で見できるので、記号的モデルにはできることなら何でもできると期待していい。第二に、コネクショニスト・モデルは多重ソフト拘束条件を満たすこと、情報の多重ソフトを折り畳むことに長じている。第三に、格納された情報が欠けていることはコネクショニスト・モデルがフレーム問題をやりすごすのに役立つ。そして第四に、ホーガンとティンソンから引用すれば、「表現レベルにおける頑丈なソフトさは、因果的リンクが単独よりも概して集団的に作用する、ある形のサブ表現的ソフトさにもとづいているように見える」。コネクショニスト・モデルには、多重ソフト拘束条件に駆動されるシステムの実行ができることも十分ありうる。これが楽観論の理由である。
by nbsakurai
| 2004-10-19 22:34
| エリア3 (ロボットの心)
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