科学における世界の説明は、「力」というものを基にしている。その力とは、われわれが日常的にも経験する①重力、②電気や磁気、そして原子以下のレベルで働く、③強い相互作用の力と、④弱い相互作用の力、の四つである。これらの力によって、この世界における自然現象、物がどう相互に作用するかが説明される。今のところ世界には、これら以外に働く力はなく、世界の現象はこれらの力とその作用によって説明がつけられる。(なお、宇宙を加速度的に膨張させている、アインシュタイン方程式の宇宙項、ダークエネルギーと呼ばれているものは、まだ正体不明のようである。)
17世紀の科学革命以前、地上の運動と天上の運動は、それぞれ異質の力に基づく、まったく別のものと考えられていた。17世紀の初頭に、ガリレオは地上の物体の運動について観察や実験を行い、落下や加速、振動等の運動について、科学的な理論を構築した。同じ頃に、ケプラーは、ティコ・ブラーエの残した観測資料を基にして、太陽の周りをを回る惑星の動きを支配する、一連の法則を定式化した。17世紀後半、ニュートンは、地上の物体についてのガリレオの理論と、天上の物体についてのケプラーの理論を、万有引力の法則によって統一した。ニュートンの偉大さは、まったく異質と考えられていた自然現象を、重力の原理という単一の理論で説明したこと、つまり、地上と天上のいずれにも当てはまる統一理論を造ったことである。この理論は大いに成功しただけではなく、数学的にも洗練されたものであった。また、この理論によって、未知の惑星の存在が予言され、発見された。
磁石や静電気は古くから知られていたが、それらの現象に何らかの関係があるとは考えられていなかった。19世紀の初期、エルテッドは、電流によって磁石の針が振れることを発見した。その少し後には、ファラデーが、変化する磁場の中で導体に電流が生じるという、電磁誘導を発見した。19世紀中頃になって、マクスウェルは以上二人のほか、電気と磁気の現象に関する多数の科学者の研究成果を、4つの方程式にまとめることに成功した。その方程式は、電気と磁気を結びつけ、既知の事実をうまくまとめて第二の統一を成し遂げただけではなく、洗練された美しさも備えていた。さらに、この方程式から、電場と磁場が交互に直交する向きで交替する、電磁放射の波動が導かれ、計算によりその速度が光速に等しいことが分かった。これにより、光というものについて、ひとつの科学的な説明が与えられた。しばらくして、ラジオ波がヘルツによって発見された。その後、電磁波には、ラジオやテレビの電波、赤外線、可視光、紫外線、X線、ガンマ線などがあることが分かった。これらはみな、ひとつの原理に基づくものである。
ニュートンの成果は、天上と地上を統合したことであり、マクスウェルの成果は、磁気と電気、光という現象を統合したことである。科学の方程式は、ごく僅かな記号を用いただけで、実に多種多様な現象をうまく説明することができる。そればかりか、ひとたび方程式が造られると、その時にはまだ知られていなかった現象まで、予言したり説明してしまう力を持つ。それは簡明で、美しいものである。科学のひとつの目標は、できる限り少ない方程式でできる限り多様な現象を統一して説明し、、簡明な方程式で世界の異なる現象をひとつの理論にまとめ上げる、ということである。
20世紀半ば過ぎ、ワインバーグ、サラム、グラショウが、放射性崩壊に作用する弱い力と電磁力の統一(統一理論)に成功し、この二つの力をひとつのものとして理解することができるようになった。この理論は様々な形で検証された。その後、素粒子を結合させる強い力と電弱力を統一して理解させる理論(大統一理論)も示されたが、まだ検証には至っていない。大統一理論を実験的に検証するひとつの可能性として、この理論が予言する陽子崩壊を観測する実験(例えばカミオカンデ)が行われたが、崩壊する陽子は今のところひとつも観測されていない。大統一理論を直接的に実験するという期待は、既にしぼんでしまったようである。なお、以上の理論には、統一の対象として、まだ重力は含まれていない。
20世紀後半からの超ひも理論が、重力を含めたすべての力の統一理論、究極の理論として、注目を集めて研究されている。この理論は、重力を含むすべての相互作用の矛盾のない量子論であるだけではなく、世界のすべての粒子と力を組み込んだ矛盾のない理論である可能性がある。ただこれは、どうも極めて複雑で抽象的な数学的理論のようで、今のところはなかなか理論としてうまくまとまらず、また直接的な証拠も何もないようである。現状では、将来に夢と希望を託して研究するには足る理論、というような状況のものであるようだ。