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2004年 09月 22日
『The Qualia Manifesto』
http://www.qualia-manifesto.com/manifesto.j.html 茂木健一郎 氏 ―― ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京工業大学大学院客員助教授(脳科学、認知科学)、東京芸術大学非常勤講師(美術解剖学) ↑コレは、mori0309 さんのお考えや発想と似た部分もあり、一方でnbsakuraiと考えが共通する部分もあり、その中間というか、両者の相互理解の橋渡しの一助にもなりうるものではないかと思います。 本人による『クオリア・マニフェスト要約』 http://www.qualia-manifesto.com/manifesto-summary.j.html もあるのですが、これではカンジンな部分がヨク見えないので、イカに抜粋してみました。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ クオリアとは、「赤の赤らしさ」や、「バイオリンの音の質感」、「薔薇の花の香り」、「水の冷たさ」、「ミルクの味」のような、私たちの感覚を構成する独特の質感のことである。 この作業は、自然科学を従来の客観的視点に立った自然の記述のみを目的とする物理主義の科学から脱皮させ、主観的な視点の起源をも視野に入れることを伴うだろう。 そもそも様々な「クオリア」が結びついた表象が感じられる枠組みである「私の心」という主観性(subjectivity)の構造がどのような物質系にどのような条件の下で現われるのかを明らかにすることは、客観的世界と主観的世界の間で分裂した私たちの世界像を整合的なものにする上で必要不可欠なステップである。 「クオリア」や「主観性」の起源の解明は、自然科学の問題として重要であるばかりでなく、人文的文化の究極的基礎を提供する。「クオリア」は、今後の人類の知的挑戦における本質的課題を象徴する概念である。その影響は、自然科学はもちろんのこと、人文科学、芸術、文学、宗教、さらには人間とは何かという概念自体まで、広い範囲に及ぶだろう。 C.P.Snowは、自然科学の営みと人文主義的な営みの「二つの文化」の間に対立があると指摘した。この「二つの文化」の間の亀裂を埋めることは、「クオリア」や「主観性」の問題を追求することによって初めて可能になる。例えば、音楽の美しさを、進化論的な観点、あるいはシャノン的情報理論から説明しようとするのはナンセンスである。音楽の美しさは、ピッチや音色といったクオリアを正面から対象にすることによって、初めて議論が可能になる。言葉の意味論を含め、人文主義的な営みの多くが、クオリアや主観性の起源を明らかにすることによって、初めてその究極の根拠を与えられるだろう。 クオリアに象徴される心脳問題の解決は、従来の意味での自然科学のみではなく、広く人文科学、文化、芸術、社会学、哲学、宗教などの全ての人類の営みを総合した総合的文化運動の結果としてのみ可能となる。 私たちが心(mind)を持つという事実は、人類が自覚的な意識を持ってから長い間、当然の前提とされてきた。心の存在を前提にして、人間中心的な世界観が形成された。人間が心を持つことは当たり前のことであって、それがどのように成立するかということが深刻な問題として自覚的に問われることはなかった。 ニュートン力学の成功を一つの金字塔とする機械論的な宇宙観が成立するにつれ、世界全体を自然法則に従って機械的に発展する物質システムとしてとらえる見方が定着してきた。このような物理主義的な世界観が支配的になり、このような世界観の中には、私たちの「心」のある場所はなかった。 デカルトは、心的現象と客観的物理現象を分離し、客観的物理現象のみを自然科学の対象とする方法論を打ち立てた。心的現象は明らかに存在するにも関わらず、それは自然科学の対象からははずされた。私たちの感覚の持つクオリアは、あたかも存在しないかのような擬制の下で、物理学を典型とする自然法則の解明が進んだ。 今世紀の初頭、ホワイトヘッドは、私たちの自然観が、クオリアのような質感に満ちた心的現象の世界と、波動や粒子といった数、量で記述される客観的物質世界に分裂していることを指摘した。 私たちの世界観の中で心的現象が本来占める重要性に対するいきいきとした感受性を持ち、心の中の様々な表象(representation、Vorstellung)の重要性を指摘したのが、フッサール、ハイデガーらの現象学者たちであった。 ミンスキーらによるstrong AIの立場(機能主義的にシステムを構成していくことにより、意識を人工的に再現することができるという主張)に基づく研究は、人間の知性を客観的なシステム構成によって再現しようという試みであって、機能主義の立場からの中心的な研究プログラムの一つであった。 機能主義に代表される客観主義的科学において「心」の問題が扱われていない間隙を縫って、いわゆるニューサイエンスやスピリチュアルといったジャンルが隆盛した。しかし、これらの文化的動きは、客観主義的科学との整合性について真摯ではなく、いわば人間の主観的なファンタジーの世界(それはとりもなおさず心の中のクオリアや表象の世界に過ぎないのだが)に閉じていた。 私たちの心の中のクオリアを「私」が見るという構造は、「私」という「主観性」(subjectivity)の構造に支えられている。「私が赤を見る」という心的体験のうち、「赤」の「赤い感じ」がクオリアであり、一方、「私が○○を見る」という構造が主観性である。 クオリアや主観性は、従来の客観的視点に立った物理主義の延長ではとらえきれない。客観的な立場からは、ある物質系がどのように時間発展をするかを記述できればそれで必要十分である。しかし、クオリアや主観性が、ある物質系の時間発展に伴ってどのように現われるかを記述する法則は、時間発展の客観的記述を与える法則とは全く性質が異なる。 素粒子論的な意味での「究極の法則」(Theory Of Everything)が例え成立しても、それは物質系の客観的な記述を与えるだけだから、クオリアや主観性の問題の解明にはつながらない。例え、物理主義的な意味での「究極の法則」が成立したとしても、クオリアや主観性を記述する自然法則は、そこから始まる全く新しい領域に属する。 現代物理学では、時間の中で「今」には何の特別な意味もない。心の起源を明らかにするためには、最終的には、「今」(Now)が特別な意味を持つような時間の構造をつくり出す必要がある。 空間の中で、「私」という視点が占める特別性と、時間の流れの中で「今」という時点が占める特別性の間には、何らかの内的な関連性があるように思われる。 デジタル・コンピュータによってシミュレーションが可能であるということは、必ずしも、脳を理解する上でチューリング・マシーンのメタファーが有効であるということを意味しない クオリアの問題を解決するための方法論としてもっとも重要なのは、逆説的であるが、この問題が安易に解けたという幻想を持たないこと、そのような「無知の知」で武装することである。Strong AIの主張者は、この「無知の知」そのもの、ないしは、そのような認識に至る感受性、論理性を欠いていたがために心のモデルに到達できなかったのである。 クオリアの起源を知的に把握するのと同様、「主観性」の起源を知的に把握することにも、現時点では深刻な方法論的困難がある。まず、この困難がいかに深刻なものであるかを理解する必要がある。Chalmersは、クオリアの問題が心脳問題におけるhard problemだと述べたが、同様に、主観性の問題も、hard problemであることを認識する必要がある。 クオリアや主観性の基礎を明らかにすることは、自然科学の問題だけではなく、より一般の人文的文化にも大きなインパクトを持つことになる。 視覚の芸術である美術、聴覚の芸術である音楽、言語の芸術である文学などの人文的文化は、「クオリア」と「主観性」を前提にした人間の活動である。一方、従来の自然科学においては、「クオリア」や「主観性」が何らかの本質的役割りを果たす余地は全くなかった。したがって、ここに、C.P.Snowの言う「二つの文化の対立」の根本的原因があった。 例えば、ヴァイオリンの音を周波数分解しても、それはヴァイオリンの音のクオリアを理解する上では何の役にも立たない。同じように、色とは光の波長のことであるというのは、おおいなる誤解である。音楽における「美」を、シャノン的な情報論的観点から、あるいはダーウィン的な進化論的観点から論ずるのは全くのナンセンスである。 人間とは何か、人間はどこから来てどこへ行くのか? このような究極の問いに答えるための鍵となるステップが今や見えてきている。 人間とは何かという問いに答える鍵は、私たちの心の中のクオリア、及びそれを支える主観性の構造の物質的基礎を明らかにすることである。
by nbsakurai
| 2004-09-22 10:19
| エリア4 (問題の所在)
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